何故鮟鱇婦人を観てほしいか私なりに考えてみた(橋本)

本番まで3週間を切った。

台詞もひと通り入り、再度頭から返していく稽古中。
ありがたい事にお知り合いの方で稽古を見学したいという方が多くいらっしゃり、いつもの稽古場とはまた違った緊張感の中で作品の肉付け、そぎ落とし作業を行なっている。

千田さんが稽古中によく言う言葉に
「自分の言葉に出来てきた」「風景が見えてきた」
というのがある。恐らく自分が舞台で生きる事が出来ている実感を積み重ねていっているのだろう。

たまに稽古を観ていて恐ろしくなる。
どんどん吸収して姿を変質させていく役者というのは、何だか怖い。
人間はここまで変われるのか、と。
とにかく、千田さんの体に鮟鱇婦人達はジワジワと染みこんで発露されていっているようである。

しかし、どんなに稽古場で凄い凄い!言うてても、中々チケットの売れ行きには直結しない。
宣伝というのは難しい。
変に宣伝すると、変に伝わるし。

「千田さん頑張ってるので観に来て下さい!」

→いや、どんな舞台でも役者は頑張ってるだろ。

「台本めっちゃ面白いんすよ!」

→自分で書いたんだから作家は誰でもそう思うだろ。

「泣けます!」

→別に泣きたくねえよ。笑いたいんだよ。(結構笑えますけど)

とまぁ、とかく全員の心を撃つキャッチフレーズ何て無いわけだが
どうにかこの稽古場で感じる「絶対に観たほうが良い感」を伝えたい。

唐突だが、私は野球が好きだ。

よく演出をする際に「この役者は藪恵壹タイプだから」「川尻みたいに相手をかわしていくスタイルやね」「吉田豊彦みたいに泥臭く」とか思う。(言っても誰にも意味が伝わらないので言わないが)

今回も、千田さんがどういうタイプの役者で、鮟鱇婦人はどういう試合なのか、ということを考えていた。

 

ロージンバッグをポンポンと、高ーく二回、表裏を返す。
それがあの投手の「儀式」だ。

左サイドスローから繰り出される150キロ中盤の荒れた速球と大きく曲がるスライダーに打者は翻弄され、観客は湧いた。
甲子園決勝再試合で力尽き、135キロの直球をレフトスタンドに運ばれ力尽きる。
その後高卒でプロ入り。
最初の1~2年は打ち込まれる試合も多かったが、徐々に制球力もつき、7回までは任せられるチームのエースとして成長する。
しかしここ数年は怪我の影響もあり、長いイニングを投げる事も少なくなり、対左打者用の中継ぎ左腕として、豪速球でぐいぐい押すのでなく、変化球と140キロ代の癖のある直球で打たせてとるタイプになっている。
変化球もカーブ、シュート、チェンジアップと多彩。

さて本日の試合。

ローテーションの谷間で先発投手がおらず、実に7年ぶりの先発マウンドを任される。
ロージンバッグを手にとりマウンドで一礼し、二度、ポンポンとロージンバッグを裏表に返す。
その姿は、18の頃甲子園を沸かせた姿と重なる。

第一球目は外にボール1つ外れるチェンジアップ。
甲子園での姿を彷彿とさせる150キロ中盤の速球は、もう無い。
しかし、癖のある直球と小さく曲がるカーブ、チェンジアップで打者を翻弄。
凡打の山を築いていく。
そして5回、タイミングがあってきたカーブをセンター前に運ばれる。
球速も140キロに届くのがやっと。
ここでバッターはシーズン55本ペースでホームランを量産する四番バッター。

ここで、少しフォームが変わる。
いつもより軸足が沈んだ形で外高めに糸をひくような速球が放られる。
豪快に空振。

150キロ

どよめく観客席。

一球目、外高め150キロ速球、空振。
二球目、内角低め148キロ。ボール。
三球目、外角低め149キロ速球。見逃し。

そして四球目。
真ん中高め、豪快に振り回されたバットの上を通り抜ける浮き上がる様な直球。
空振り三振。

152キロ。

ここから若い頃の速球スタイルと現在の軟投スタイルを織り交ぜて打者を幻惑し、時に三振、時に内野ゴロを重ねていく。
打者は手も足も出ない。

そして9回。流石にスタミナが切れてきたのか、肩で息をし始める。
投手コーチの質問に首を振り、マウンドに残る。
そして投じられた121球目・・・観客は絶句した。

 

・・・鮟鱇婦人はこんな感じのお芝居です。
本当はこんな文章を知り合いにメールで送りたいのだが、まぁあれなので送りませんが。
とにかく、まぁ、わかりやすく言うと。

「工藤公康が横浜で3安打完封試合」

もしくは、

「山本昌が48歳ノーヒットノーラン達成」

こんな感じ。
もうさっぱりわからないだろう。私もどうだろうとは思う。
ただ、野球は始まってみなければどんな試合が観られるかわからないが、今回は、ベテラン変速左腕が全てを出しきって完封する試合が観れる。
兎に角観に来てほしい。それが言いたいだけだ。
是非、146球の熱投を感じていただきたい。

(ランタイムは80分までを予定)

https://ticket.corich.jp/apply/45617/

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