まぁなんだ(橋本)

出演者紹介をまた書ききれなかった。

森田さんに「絶対に書いてくださいね、楽しみにしてますからね!」と念押しされていたにも関わらずだ。

あのときの私は特に人間としての何かが欠落していたのだ。
そうに違いない。本当にすいません。
公演が終わっても、出演者の皆様をご紹介したいのは山々だ。
スタッフの皆様や、色々お手伝いしていただた方の顔が私の脳内を掠めていく。
観に来てくださった方への感謝やら色々を伝えるべきだとも思う。そうすべきだ。

しかし今話したいのは、ある男についてだ。
なぜだろうか。彼の一挙手一投足が気になって仕方がないのだ。

彼には急遽、幽霊’に出演していただく事になった。
あれはニットキャップシアターさんを観劇した際だった。
台本が書ききれず、でも役どころが増えてしまった私がうんうん唸っていた本番一ヶ月前、その男は私の隣の座席に偶々座った。

彼は舞台に光線銃が出てくるたびに「うふふん!」と笑った。
他の誰も笑っていないのに「うふん!」「うっ!っふうん!」と光線銃が出てくるたびに笑った。

いや面白いシーンだったが、声に出して笑う感じの雰囲気では無かったものだから、私の隣で「うっ!っふうん!」という彼はやはり気になる。

ひとしきり笑い終えた彼に、出演者が足りない自体に陥っていた私はダメ元で出演してくれないかと聞いてみた。
なぜダメ元かと言うと、彼は自身が作演出しているコトリ会議の本番を一週間後に控えていたからだ。

まぁびっくりするぐらいあっさりと、OKを貰った。
もう一人女の子が足りないんだけどと言ったら、ご丁寧に室屋さんを連れてきてくれた。

彼は稽古合流初日、停滞した稽古場の空気をかき回してくれた。
しかし二回目の稽古で、彼は早くもスランプに陥った。

「笑い方がわからない」

いや、笑う為だけの役なんだけど。
彼は笑うと「うっ!っふうん!」という変な笑いになるから、自信が無いと言う。
いや、それでいいからと伝えた。
次の稽古ではちゃんと笑っていた。

石塚さんとコンビの役どころで、台本に書いてないのに「ルネッサーンス」と言い出した。
2ステ目でキレの悪い「ルネッサーンス」が出たので、もう止めてくれないか、と言ってみた。
彼は髭男爵を知らないので、あまりこのネタのキレの意味をわかっていなかった。
なのに「石塚さんが悲しむから・・・」とこのネタの存続を訴えた。

バラシの人員配置の際、照明のお手伝いができる人が少なかった。
役者さんで誰かいませんか?と舞台監督が募ったところ、彼が手をあげた。
彼は照明の事を殆ど知らないのに手を挙げた。
そして案の定「シート枠を集める」という地味な役どころをやっていた。

バラシも終わり打ち上げも終わり、さぁ搬出という段取り。
今回は物量が多いので、お手伝いしてくれる人を募った。
ここでも手が挙がった。
彼は舞台監督の倉庫に来てくれるという。

トラックで倉庫につくと、何やら不満そうな彼がそこにいた。

「教えてくれた地図の場所にいったら違う倉庫で、怒られた」

拗ねた彼にジュースを買ってあげたら、とても嬉しそうだった。
ダメ元で「このまま生駒のサカイさんの美術搬出に付き合わない?」と誘ってみた。

彼は来た。生駒へ。

生駒山を抜けるトンネルの中、彼は奇声を発していた。
隣にいたニノキノコスターも奇声を発していた。
その時気がついた。

このトラック、作演しか乗ってない。

とりあえず私も一緒に奇声を発した。

そして彼は汗だくで美術の搬出を終え、飲みにも付き合い、ああ楽しかったと帰っていった。

なんだか分からないが、彼は人を引きつける何かを持っている。
山本正典という男の事を淡々と書きたかった、そんな夜である。

ご来場頂いた皆様、本当にありがとうございました。
次は全然違う話を考えてます。

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