書きはじめた(橋本)

誰がご覧になっているのかは定かでは無いが、毎日何人かの方がここを訪れては
「ああ、また更新してねぇなぁ」とか思って帰っていってるらしい。
申し訳ないと思わないでもないが、「私の演劇は面白い」「私が素晴らしいから観ていただきたい」なる事ばかりブログに書き綴っている自分を見返すと
二日酔いの朝鏡前に立ったときの心持ちになるのでもうなるべくブログは書きたくないなと思っているのですが、少しだけ書かせてください。お願いします。
誰に願っているのかさっぱり分からないが、何となく願ってから書きたい気分だ。

有り難い事に、ここ数ヶ月書く仕事以外の仕事を沢山頂いて余裕が無かったというのもあるのだが、書けない自分と向き合いたくないという逃避感覚が無かったわけではない。
充実した毎日と言っても過言ではない日々だったのだが、少し休んで一昨日家でタバコを吸って溜まりに溜まった朝ドラを消化して少し眠って飼っている亀の水槽の掃除したりという取り留めのない時間を過ごしていると、やはり居た堪れない気持ちになった。
書ききれずに上演してしまったという思いはどうやら自分の底の方でクラクラと弱火で煮こまれていて、さぁ書くぞと思うとキーボードを叩くたびに指先で煮こごりが溶けずに揺れて動きづらい。
亀の糞を沢山含んだ水を観葉植物にやると、みるみる元気になっていく。
我が家はなんだか小さい地球みたいじゃないかなんて思っている間にも、煮凝りはドンドン冷えて固まっていく。

余裕無いピーク時に、5月に短編を上演しませんかというお話をいただいた。
友人が亡くなった日だった。その場ではまたメールをしますとだけ言って彼のお通夜へ向かった。

式場は大阪市内より少し遠いので、知人の殆どは車で向かっていた。
私にも元劇団員が車で送ってくれると言ってくれたが、何となく彼が病気になってから大阪へやってくる際に利用していた夜行バスで向かってみたい気分になったので、すまんと伝えて一人出発地である大阪駅へ。
ヨドバシカメラの奥に見える真新しいビル群レイヤーは、数年前の梅田の風景レイヤーに重ねられて、違う町に来てしまったと思わせる。
私の知らぬ存ぜぬ所で何やらお金が動いてビルが立つなぁ。
いちいちエライ人が我が家に来られて「ビルが立ちます」とか言われても困りますけど。

22時JR梅田駅から出発するバスの乗車客は私を含めて5人程。
流れる新御堂を眺めているうちに、ぽつぽつと彼が飲み屋で言ってた毒や毒や毒なんかを思い返したり。
新大阪で急に乗客が増え、私の隣には少し大柄な男性が座った。私はあっさりと不機嫌になった。
他にも隣が空いている席が沢山あるのによりによって、と、私の小さな小さな器から渋柿みたいな感情が溢れだしてすいませんでした隣の方。
途中道の混雑もあり、目的地に着いた頃にはその日が終わっていた。
降車駅を少し過ぎてしまっていた。
到着した駅はバスの車庫で、そこで下車したのは私と隣の男と運転手の3人だけ。よりによって、である。
バスから降りると大阪よりも少しだけ刺す様な寒さ。右手には少し開けた町への一本道、左手には星空と真っ黒な稜線に消失していく一本道。
私はギリギリ電波を保っているスマホを片手に町の方へ向かう一本道へ。
運転手は仕事を終えたと見えて(そりゃそうだ)タバコを咥えてベンチにドカッと座っている。
もう一人の男は逆の一本道に迷いなく進んでいった。

30分程名前しか知らない町を歩いた。
少し寂れた街ではあるが、嫌な寂れ方をしていない。
数ヶ月前にチラシの撮影の為に訪れた海に面した町は、海岸線以外は何処にいっても万年床と畳の間の湿り気にも似た匂いのする嫌な寂れ方をした町だった。
潮風がそうさせるのかは分からないが、山に入っても清々しいものが何一つなくジメジメと臭い木々がただ生えていると言わんばかりの有り様だった。
それに比べると、寂れているか、いないか、で言えば確実に寂れてはいるのだけれど、それぞれの家や道路や木などがキチンと死んでいっている印象を受けた。
勿論そこで人は生きているし、朝がくればきっと子供達が友達同士で妖怪をウォッチしたりしているのだろうけれど。
相対的にって話です。

程なく歩くと突然川の音がゴゴゥと耳に入ってきた。
川沿いの道に出ると、雨を多めに含んでいるのか少し荒々しく下っていく川。加古川だ。
昔加古川出身の彼女がいて、彼女のおじいちゃんが提灯を作っていて、ああ、提灯を作って生きていくっていう手もあるか、
でも、きっと私がやっても食べられないでしょう、なんて思った事がスルリと喉元を通り過ぎた頃に式場に到着。

本人と顔を合わせても別人にしか見えなかった。
友人は「ごっそり持っていかれてた」と表現していた。
ああ、ストレートに、そうだね、と思った。

お通夜とは思えぬギャグの応酬(勿論彼の話も沢山しました)後、
帰る手段のアテもなくバスに乗ってしまい「漫画喫茶ぐらいあるだろ」という余りに乱暴な期待はあっさり裏切られてしまったので、同席した先輩夫妻の車に乗せてもらって帰宅した。
高速を降りて「ここからなら道わかります」なんて自信満々に言ってしまったもんで1時間程大阪市西部をグルグルさせてしまい本当すいませんでした。
お通夜だけと思っていたが、お通夜に行ってやはりこのままお別れでは、と告別式にも参加させてもらおうと思い、
諸々関係者の方々にお詫びして一日予定を空けさせていただき、レンタカーを予約して仮眠を1時間程取って、友人を乗せてまた同じ場所へ向かった。
もの凄く青いレンタカーだった。
もう、それは、青かった。
写真撮っておけばよかったと今でも思うぐらいの青さだ。
まだ喪服を持ちあわせていない私はややグレー側に寄りかかった黒のスーツで出席せざるをなかった。
そして私は悲しむ事よりも、不謹慎な!と怒られないだろうかという何ともクダラナイ気持ちと戦っていた。
私と同じくグレー気味のスーツを着ている人を見るたびホッとするが、その子はどう見ても私より歳下なのでゲンナリして、今度給料が出たら喪服を買おうと決意しているうちに葬儀が終わった。
青い車に対してもグレー気味のスーツに対しても、誰も怒らなかった。
(グレー気味のスーツに関しては後日苦言を呈された)

その時がくれば悲しくなるはずとタカをくくっていた予感は見事ハズレ、私はまたお忙しい中へ戻る。
そんな日々がまぁ一区切りついて、そしてやっと、書こうかな、という心持ちになり、短編のお話を受けさせていただき、少しずつ私の煮こごりを溶かしていく事にした。

彼とはひとつだけ約束事をしていたのだが果たされないままなので、その約束ぐらいは果たしてから、私もそちらに行きたい。
そう今は思って、キーボードをタカタカと叩き始めた次第です。

亀の糞水が観葉植物の幹を伝って吸い上げられて透明な雫となって、葉先に少しだけ滴っている。

 

 

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